「感謝メガネ ― 幸せはすぐそこにある」岡村佳明著【②灰色のため息】
幸せは、探すものではなく、気づくものでした
SNSや口コミで感動が広がっている『人生は感謝するほどうまくいく』。
本編から生まれた、もうひとつのスピンオフストーリーが本作です。
「心の視界」がクリアに変わる感謝の魔法を、岡村佳明さんが全8回でお届けします。
さあ、あなたも「感謝メガネ」をかけてみませんか?
[連載第2回]

第2回/全8回
『感謝メガネ ー幸せはすぐそこにあるー』
2 灰色のため息
「イタタタタ……」
そうだった。昨日の俺は波にまかれてサーフボードが頭にあたりケガをして、病院に行って縫ったんだった。
麻酔も痛め止めも切れたのか、ズキズキと痛みが出てきた。
(それにしても最近の俺は、やっぱりツイてない)
上司に怒られたり、車をぶつけたり、財布を落としたり。海で気分転換できたと思ったのに、結局昨日はケガしちゃって。もう本当に人生最悪だ。
(今日もまた、イヤなことが起きたらどうしよう)
ネガティブな思いが、修司の頭をかすめた。
「二度あることは三度ある」という諺もあるくらいだ。「泣きっ面にハチ」というのもあるし。
「どうせ一生懸命仕事しても怒られるし……」
「どうせケガで海にも入れないし……」
「どうせお金もないし……」
「だって」「でも」「どうせ」「だめ」「できない」などの頭文字がDで始まる否定的な言葉を「ネガティヴD」と言うらしい。
修司の頭には、ネガティブで消極的な言葉しか浮かばなくなっていた。
頭の中が黒っぽく灰色にかすんでいるような気分だ。
そんなことばかり考えていると、仕事に行くのだってイヤになってくる。
修司は家から出るのも面倒になっていた。
(家から出なきゃ、イヤなことも起きないよな)
心の中でつぶやいて、「はぁ~」とため息をもらした。
「修司~、ごはんの支度ができたわよー、仕事に遅れちゃうわよー」
母の声だ。
階段をダラダラ下りて、テーブルにつく。
朝食のおかずはあじの開きだった。
パリッと焼けた皮から香ばしい匂いがして、ふっと昨日のことを思いだした。
(そうだったよな……)
昨日のホヌとの会話が脳内でよみがえる。
「修司さん、おなかすいてませんか……」
ホヌの声が聞こえたような気がした。
「ねぇ母さん。うちのおじいちゃん、というか、もっと昔のご先祖さまって、海の仕事とかしてた?」
母は手を止め、不思議そうな顔で修司を見た。
「急にどうしたのよ。そうねぇ、おじいちゃんは会社勤めだったでしょ、でも何代か前のご先祖には、たしか船乗りをしていた人がいるって聞いたことがあるわねぇ」
「え? 誰?」
「母さんも、よく知らないのよ。
あんたチョット調べてみれば?
ほら、それより早く食べちゃいなさいよ。仕事に遅れちゃうわよ」
(そうだ、そんなことより、仕事だ。やっぱり今日は、ケガを理由に仕事を休もう)
最近厳しい浅野さんも、こんな時くらいは「ゆっくり休め」と言ってくれるだろう。
昨日、ケガをしてしまいました。
頭を5針縫うことになってしまい、今日は休ませていただきたいです。
LINEを送った。
返事は、すぐに返ってきた。
最近ずっとミス続きのくせに、頭を少し縫ったくらいで仕事休むのか
おまえ、甘えたこと言ってんな
ケガを心配する言葉も、いたわりの言葉もなかった。
あの一件以来、浅野先輩の態度は一変してしまった気がする。
それは、「先輩だって…」という修司のちょっとした一言が発端だった。
修司はホテルのレストランで働いている。
最近は「どうして自分はこんなにツイてないんだろう」なんてことばかりを考えてしまい、すっかり自信がなくなっていた。
そのためか、オーダー間違えや、提供ミスが増えていた。
それを先輩の浅野から指摘される。
「お前、何回言ったらわかるんだ!」
浅野の言葉にイラっときて、「先輩だって……」と言ってしまったことがある。
「先輩だって、なんだ」
浅野が言い返した。
「なんでもありません……」
修司はわれに返って言葉を濁した。
浅野の修司に対する態度が変わったのは、その一件以来のような気がするのだ。
浅野との出会いは海だ。元はサーフィン仲間である。
仕事を探していた修司に、この職場を紹介してくれたのも浅野だ。
(ケガしてるのに、あんな言い方しなくたっていいじゃないか)
ただでさえ、仕事に行きたくないのに、絶対的にイヤになってきた。
(辞めちゃおうかな)
クビになってもいいから休むと決めた。
そう思った瞬間、スマホがブルブルと震えた。
(なんだよ、また浅野かよ)
クソっと思いながらスマホを見ると、ゆりこからのLINEだ!
ケガは大丈夫?
うん。まだちょっと痛むけど、大丈夫だよ!
即、返信する
ならよかった! 気をつけてね
ゆりこに優しくしてほしい。こんな日は特に、だ。
ゆりこ、ありがとう! 今晩会えないかな?
ゴメン修司、今日の夜は友人主催の異業種交流会に参加しなきゃいけないの
わかったよ!それなら、いいよ
ふてくさった気持ちで返信してしまった。
いつもは、これくらいでふてくされる修司ではない。
だが今は、そんな心の余裕がないのだ。
(家におとなしくいたって、イヤなことは起こるんだな)
修司は、灰色のため息をついた。
Yoshiaki Okamura 2026
【第3回「ゴールデンタイム」に続く】
【著者紹介】
岡村佳明(おかむら・よしあき)
「岡むら浪漫」グループ創業者
「浪漫岡村塾」塾長
JADA(日本能力開発分析)協会認定 SBT1級メンタルコーチ
JADA(日本能力開発分析)協会認定 SBTアスリートメンタルコーチ
小説家
1962(昭和37)年生まれ。
生まれも育ちも静岡県藤枝市。
母親が73年前(出版時)に始めた居酒屋を「稼業なら自由に遊べる」という不純な動機で手伝うことから、居酒屋の道に入る。
35歳でそれまで遊び回っていた生活から一念発起し、「居酒屋づくりは人づくり」「お腹だけでなく心も満腹にさせる店」を合言葉に、「看板を出さない・宣伝をしない・入口がわからない」をコンセプトとして口コミだけで繁盛店をつくり上げる。
お客さま本位のスタッフ育成に力を注ぎ、「岡むら浪漫は人間道場」といわれるようになる。
独自の経営がメディアでも注目を浴び、全国で講演などを行う。
現在も、静岡を中心に、沖縄、インドネシアのバリ島などで居酒屋経営に携わりつつ、60歳からは、それまでの「居酒屋から周りを元気に」から「岡村佳明から周りを元気に」、「日本を元気に」に主軸を移し、活動の幅を広げている。
著書に『人生は感謝するほどうまくいく』(美里出版)、『看板のない居酒屋』『マンガ 看板のない居酒屋[成長物語]』(みやたけし漫画)(ともに現代書林)がある。
◎岡村佳明 公式サイト https://okamura-school.com/
◎ポッドキャスト「看板のない居酒屋 ~繁盛店作りは人作り~岡村佳明」はapple Podcasts、Spotify、Amazon Musicのプラットフォームで視聴いただけます。
物語のベースとなった話題の電子書籍『人生は感謝するほどうまくいく』(岡村佳明著/美里出版)。
本編とあわせて読むと、より深く「感謝の魔法」を体感いただけます。

