感謝メガネ

「感謝メガネ ― 幸せはすぐそこにある」岡村佳明著【①ホヌとの出会い】

美里出版

幸せは、探すものではなく、気づくものでした

SNSや口コミで感動が広がっている『人生は感謝するほどうまくいく』。
本編から生まれた、もうひとつのスピンオフストーリーが本作です。

「心の視界」がクリアに変わる感謝の魔法を、岡村佳明さんが全8回でお届けします。

さあ、あなたも「感謝メガネ」をかけてみませんか?

[連載スタート!]

第1回/全8回

感謝メガネ ー幸せはすぐそこにあるー

1 ホヌとの出会い

太陽がまぶしい。
肌にジリジリくるのを感じながら、修司はサーフボードにまたがり波待ちをしていた。
台風が去った次の日は、いい波があがるのだ。

「いい波に乗りたい」というポジティブな期待と、「いやなことを吹っ切りたい」というネガティブな焦燥。そのふたつが交錯するような気持ちを抱えながら、今日も車を1時間走らせて、海に来た。

ここは神奈川県、湘南海岸の七里が浜。
飽き性な修司が唯一続けている趣味、それがサーフィンだ。

「サーファーはモテるぞ」
きっかけは、どこにでもあるような友人のひと言だった。
たいして興味もなかったのだけれど、モテたい一心で始めたのだった。
それが今では、生活に欠かせないものになっている。

修司は湘南の海が大好きだ。
サザンを聴きながら車を飛ばす。
厚木インターで降りて、西湘バイパスに入り、大磯港を右手に見ながら134号線へ。
防風林で海が見え隠れする木陰の道を通るたび、心が癒されていく。

やがて視界が開け、海岸通りに出ると、光る海がすぐ横に迫り、否応なしに「湘南に来た」と胸が高鳴る。
江ノ島が近づき、風に揺らぐヤシの木が見えれば、もう気分は完全なバカンスだ。
たとえイヤなことがあって落ち込んでいたって、その頃にはもう、修司の心は踊り始めている。
それが修司のルーティンだった。

しかし、その日はいつもと少し違っていた。

「来た……!」
セットのいい波が入ってきた。

朝イチの海は、気持ちがいい。
海面がキラキラと光り、柔らかな風を体で感じる。
寄せては返す規則正しい波の音が、透き通った空気に溶け込んでいる。
修司はボードにまたがったまま背伸びをし、思いっきり深呼吸した。

連休過ぎの平日。湘南は日常を取り戻し、サーファーの姿もまばらだ。
静けさと寂しさ、そして切なさが混ざったような、なんとも言えない感傷に浸りながら、修司は波待ちをしていた。

「よし! うまくテイクオフできた!」

初級を脱したばかりの修司は、横に走るのが精一杯だ。
それでも、一本めの波に乗った修司は、確かな満足感に包まれていた。

「俺、ちょっとカッコよかったんじゃないか?」

パドリングで沖に戻りながらひとり言がこぼれ、思わずフッと笑みがもれた。

最近、落ち込むことが多かった修司だった。
しかし、今日も海は最高にリフレッシュしてくれる。

ここ最近の修司は、明らかにツイてない。
ちょっとしたミスで上司に怒られる、車をぶつけ、おまけに財布まで落とすありさまだったのだ。

「サーフィンって楽しいですか?」
修司はこう聞かれることがある。

「波に乗る」
これは、サーフィンをやってみないとわからない感覚だ。
口ではなんとも説明するのが難しいのだ。
波の上に立つ。
波に押されて走る。
すべる感覚は、爽快なんてもんじゃない。
頭の中が空っぽになって、とても気持ちいい。

「今日はいい波に乗って、その勢いで人生のいい波にも乗りたい!」
そんな気分だった。

波に乗っているうちに、修司の頭の中から、上司の顔も、車をぶつけたモヤモヤも、財布をなくした不安も、呪いが解けるように消えていった。

海から上がった修司の表情は、まるで憑きものが落ちたようにスッキリとしていた。

(ここはどこ……? 海の中だ。どうしてだ?)

息ができないと思ったが、不思議と苦しくない。
普通に呼吸ができる。いやむしろ、いつもよりラクなくらいだ。

手に伝わってきたのは、ヌルリとした独特の感触だった。

(なんだ、これは……)

深緑の、ゴツゴツした石のような物体。ヌルリとした感触、どこかで見たことがあるような不思議な感じがした。

(……うそだろ)

修司はカメの甲羅に乗っていたのだった。

(俺はウミガメの背中に乗ってるのか……?)

ゴボゴボという水泡の音と、流れるような水音がリズムを刻み、心地いい。
水はどこまでも透き通り、光を反射してキラキラと美しい。

すぐ近くを、青や赤や鮮やかな色をした魚たちがヒラヒラ泳いでいく。
色とりどりの珊瑚が、青い海の中で宝石のようにきらめいて幻想的だ。

さっきまで必死にパドルしていたのがウソのように、今はただ、その大きな背中に運ばれている。
ヌルリとした感触と同時に、どっしりとしたぬくもりが伝わってきて、深海へ向かっているはずなのに、不思議と全く怖くない。
むしろ、これまでにないほどの安らぎを感じていた。

夢を見ているとき、それが夢だとわからないことも多い。
カメの背中、いや甲羅に乗っていることも、魚や珊瑚を間近で見ていることも、水中で普通に呼吸していることも、ちっとも不思議だとは感じなくなっていた。

(俺はどこに向かっているんだ?)

その時、カメがゆっくり振り向いて、こう言った。

「修司様、ご気分はいかがでしょうか?」

(なんで俺の名前を知ってるんだ?)
と、修司はびっくりした。

「修司様、気持ちよさそうに寝ていらっしゃったので、起こさずにいました。もう少しで到着します。どうか、もうひと眠りしてください」

(俺は寝ていたのか?
カメの背中で、いや甲羅の上で、それも海の中で。これは一体、どういうことだ?
こいつは誰だ? カメがしゃべれるのか?)

修司の頭の中は混乱していた。
ただ、とても気持ちいいことは確かだ。
混乱しているのに気持ちがいいなんて感覚は、初めてだ。

「私はホヌと申します」
カメがまた話しかけてきた。
(ホヌか、変わった名前だな)と修司は思った。

「僕は修司だよ」

「もちろん存じておりますよ。
昔、あなたのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんには、そりゃあ、大変お世話になったんです」

「おじいちゃんの、おじいちゃんの……?」
「あ、なんでもございません」

「修司さん、いや、修司さまはおなかは空いていらっしゃらないですか? お刺身、焼き魚、魚の煮付けあたりでしたら、すぐにご用意できますけれど」

「おなかは空いてないなあ。それよりトイレに行きたいよ」
「かしこまりました。それではトイレに向かいます」

黄色や黄緑色、淡いコーラルピンクなど海中できらめく珊瑚と珊瑚の間に、隠れ家のような空間があった。それが、トイレだった。
そこにキラキラとした光が降り注ぎ、まるで宮殿のようだ。

「どうぞ、こちらへ」
ホヌに促されて中に入ると、ピチャンという音が響いた。
それを合図とするように、壮大なイタリアンオペラのアリアが流れてきた。

(……海の中でオペラ!?)
驚きながらもその調べがあまりに美しく、修司はぼうっと聞き入ってしまった。

そして、修司が用を足そうとした瞬間だった。

ブルブルブルという振動。
(地震か?)

修司は、ハッと目を覚ました。
振動はスマホのアラームだった。

(なんだ、夢か。
漏らしてしまうところだった。あぶない、あぶない)

小学生の時のことだ。父親と一緒に川に釣りに行き、2人で川に放尿する夢を見た。
その時は、見事にオネショをしていた。
それを思い出したのだ。

小学生ならまだしも、30歳手前のいい大人が寝小便とはシャレにならない。

「……ふぅ」と長い息をひとつ吐いて、助手席のまだ湿っているウェットスーツに目をやった。
修司はシートをリクライニングから戻し、フロントガラス越しに空を見上げた。

どこまでも抜けるようなスカイブルーの湘南らしい空。
斜め上から差し込む太陽の光が、海面のさざ波をキラキラと反射させている。
スマホを見ると、午前10時を過ぎたところだった。

それにしてもリアリティのある不思議な夢だった。
目が覚めた今でも、カメの声、甲羅のヌルリとした感触、青い海ときらめく珊瑚礁、色とりどりの魚の色が鮮やかによみがえってくる。

あんなに重たかった気分が、少しだけ軽くなっているように思えた。

修司はパワーウィンドウのスイッチを押し、窓を下げた。
潮騒の音と潮の香りが流れ込んでくる。
視界いっぱいに真横に伸びる水平線が、青く輝いている。

(やっぱり、湘南の海はいいな)

修司はもう一度深く、深呼吸した。

Yoshiaki Okamura 2026

【第2回「灰色のため息」に続く】

【著者紹介】

岡村佳明(おかむら・よしあき)

「岡むら浪漫」グループ創業者
「浪漫岡村塾」塾長
JADA(日本能力開発分析)協会認定 SBT1級メンタルコーチ
JADA(日本能力開発分析)協会認定 SBTアスリートメンタルコーチ
小説家

1962(昭和37)年生まれ。
生まれも育ちも静岡県藤枝市。

母親が73年前(出版時)に始めた居酒屋を「稼業なら自由に遊べる」という不純な動機で手伝うことから、居酒屋の道に入る。

35歳でそれまで遊び回っていた生活から一念発起し、「居酒屋づくりは人づくり」「お腹だけでなく心も満腹にさせる店」を合言葉に、「看板を出さない・宣伝をしない・入口がわからない」をコンセプトとして口コミだけで繁盛店をつくり上げる。
お客さま本位のスタッフ育成に力を注ぎ、「岡むら浪漫は人間道場」といわれるようになる。
独自の経営がメディアでも注目を浴び、全国で講演などを行う。

現在も、静岡を中心に、沖縄、インドネシアのバリ島などで居酒屋経営に携わりつつ、60歳からは、それまでの「居酒屋から周りを元気に」から「岡村佳明から周りを元気に」、「日本を元気に」に主軸を移し、活動の幅を広げている。

著書に『人生は感謝するほどうまくいく』(美里出版)、『看板のない居酒屋』『マンガ 看板のない居酒屋[成長物語]』(みやたけし漫画)(ともに現代書林)がある。

◎岡村佳明 公式サイト https://okamura-school.com/

◎ポッドキャスト「看板のない居酒屋 ~繁盛店作りは人作り~岡村佳明」はapple Podcasts、Spotify、Amazon Musicのプラットフォームで視聴いただけます。

物語のベースとなった話題の電子書籍『人生は感謝するほどうまくいく』(岡村佳明著/美里出版)。
本編とあわせて読むと、より深く「感謝の魔法」を体感いただけます。

\すべての奇跡は感謝から始まる!/
『人生は感謝するほどうまくいく』岡村佳明・著
『人生は感謝するほどうまくいく』岡村佳明・著
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この記事の作成者
美里出版 編集部
美里出版 編集部
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